第9話

車内は暖房がよく効いており、冷たい雨が降る外とはまるで別世界だった。ずぶ濡れのトレンチコートが肌に張りつき、葵は寒さに震えていたが、一言も発しなかった。

助手席の晴美が振り返り、毛布を差し出してきた。

「これで拭いて。風邪引いたら大変だから」

葵はそれを受け取り、小さな声で礼を言った。

晴美は手を引っ込めると、コンソールボックスに置かれた悟の手に自分の手を重ね、ごく自然に指を絡ませた。

「悟、さっきのカフェのティラミス、すごく美味しかったね。また今度行こうよ」

悟は短く応じ、親指で晴美の甲を優しく撫でた。

晴美は小首を傾げて悟の肩に寄りかかり、甘ったるい声を出す。

「約束して...

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